気になる子シリーズ (自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害) 診断基準等④

診断を支持する関連特徴
 自閉スペクトラム症をもつ人の多くは、知能の障害や言語の障害(例:言葉が遅い、言語理解が言語生産に劣る)も併せもっている。平均的あるいは高い知能をもつ人でも、能力のプロフィールにむらがある。知的および適応機能の技能間の乖離が大きいことが多い。奇妙な歩き方、不器用さ、および他の運動徴候の異常(例:つま先歩き)などを含む運動面の欠陥がしばしば存在する。自傷(例:頭を打ち付ける、手首を噛む)を認めることがあり、秩序破壊的/挑発的な行動は、知的能力障害を含む他の疾患よりも自閉スペクトラム症をもつ子どもや青年でより頻繁に認められている。自閉スペクトラム症をもつ青年および成人は不安や抑うつを呈しやすい。緊張病様の運動行動(緩慢となり“立ちすくむ”中間動作)に発展するものもいるが、たいていは緊張病エピソードほどの重症度ではない。しかし、自閉スペクトラム症をもつ人が運動症状の著しい悪化をきたし、無限症、姿勢保持、しかめ面、および蠟屈症のような症状をもって完全な緊張病エピソードを呈することが起こりうる。緊張病を併存する危険性が最も高い時期は青年期のようである。

有病率
 近年、米国および米国以外の諸国において報告されている自閉スペクトラム症の頻度は人口の1%に及んでおり、子どもと成人のいずれのサンプルでも同様の値である。その頻度の高まりは、閾値下の症例を含むようになったDSM-Ⅳの診断基準の拡大、認知度の高まり、研究方法の違い、または自閉スペクトラム症の頻度の真の増加を反映しているものなのかは不明なままである。

症状の発展と経過
 自閉スペクトラム症の発症年齢と発症様式についても注意すべきである。症状は典型的には生後2年目(月齢12~24ヵ月)の間に気づかれるが、発達の遅れが重度であれば12ヵ月よりも早くみられるかもしれず、症状がより軽微であれば24ヵ月以降に気づかれる。発症様式についての記述には、初期の発達の遅れや社会的技能または言語的技能のなんらかの喪失に関する情報が含まれているかもしれない。これらの技能が喪失してしまった場合では、両親や養育者から社会的行動または言語的機能の緩徐なまたは比較的急速な悪化についての病歴が得られるかもしれない。典型的には、このことは月齢12~24ヵ月の間に起こると考えられ、少なくとも2年間の正常発達の後に発達の退行が生じるまれな症例とは区別される(以前は小児期崩壊性障害と記述されたもの)。
 自閉スペクトラム症の行動的特徴は、乳児期に初めて明らかになるが、生後1年の間に対人的相互反応への関心の欠如を示す事例もある。自閉スペクトラム症の子どもの中には、生後2年の間にしばしば社会的行動または言語の使用における緩徐または急速な悪化を伴うような発達の停滞や退行を経験する子どもがいる。そのような喪失は他の障害ではまれであり、自閉スペクトラム症については注意信号として役立つかもしれない。さらに独特でより十分な医学的検査が必要となるものは、社会的コミュニケーションどころではない技能の喪失(例:自己管理、排泄、運動技能の喪失)、または2歳の誕生日の後に起こってくる技能の喪失である(この障害の「鑑別診断」の項のレット症候群も参照)。
 自閉スペクトラム症の最初の症状は言語発達の遅れであることが多く、しばしば社会的関心の欠如または普通でない対人的相互反応(例:人の顔をまったく見ようとすることなしに手を取ること)、奇妙な遊びの様式(例:おもちゃを持ち歩くが決してそれで遊ばないこと)、および独特なコミュニケーション様式(例:アルファベットを理解しているのに自ら名前の呼びかけに反応しないこと)を伴っている。聾が疑われることもあるが、ふつうは除外される。生後2年目に奇妙で反復的な行動や標準的な遊びの欠如はより明らかになってくる。多くの定型発達中の年少の子どもが強い好みをいだき、反復(例:同じ食物を食べる、同じビデオを何度も観る)を楽しむため、未就学児では自閉スペクトラム症の診断特徴である限定された反復的な行動を識別することは困難となることがある。臨床的な識別は、行動の形式、頻度、および強度に基づいて行われる(例:日常的に物を何時間も一列に並べ、その中のどれかを動かされると強い苦痛を感じる子ども)。
 自閉スペクトラム症は変性疾患ではなく、生涯を通して学習や代償をし続けることが一般的である。症状は小児期早期や学童期早期に最も顕著であることが多く、少なくともある領域では、発達的進歩が一般的に小児期後期にみられる(例:対人的相互反応への関心の増加)。ごく一部の人が思春期に行動面での悪化を認めるが、他のほとんどの人は改善してく。自閉スペクトラム症をもつ人のごく少数でどちらかといえば優れた言語および知的能力をもち、特殊な関心や技能に合うような適所を見つけることができるような人のみが、成人期に自立した生活や労働をしている。概して、障害の程度が軽度な人はより良好に自立して機能することができるかもしれない。しかし、障害の程度が軽い人であっても、社会的に初心で脆弱であり、実務的な要求を援助なしで行うことは困難であり、不安や抑うつを呈しやすい。人前でその困難さを隠すために代償的な戦略や対処法を用いていることを多くの成人が報告しているが、社会的に受け入れられるように表面を取り繕うことのストレスや尽力に苦しんでいる。自閉スペクトラム症の老年期については、ほとんど知られていない。
 成人期になって初めて診断に来診する人もいるが、おそらく家族内で1人の子どもの自閉所の診断、または仕事や家庭での関係の破綻がきっかけになったのであろう。そのような場合では、詳細な発達歴を聴取することが困難であるかもしれず、自己申告された困難を考慮することが重要である。臨床的な観察によって現時点で診断基準を満たしている場合、幼小児期に良好な社会的およびコミュニケーション技能の証拠がなければ、自閉スペクトラム症の診断がなされるかもしれない。例えば、幼小児期を通じて通常の持続的な相互的友情関係や良好な非言語的コミュニケーション技能をもっていたという報告(両親または他の親類による)があれば、自閉スペクトラム症の診断は除外されるだろうが、発達に関する情報の欠如それ自体でそうすべきでない。
 自閉スペクトラム症を定義する社会的およびコミュニケーションの障害や限定された反復的な行動の表れは、発達期においては明らかである。その後の生活の中で治療的介入または代償と、さらに現在受けている支援によって、少なくともいくつかの状況でこれらの困難さが隠されているかもしれない。しかし、症状は依然として現在の社会的、職業的、または他の重要な機能の領域における障害を引き起こすのに十分である。

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル参照