【ASD(自閉スペクトラム症)】の特性
先天的な脳の疾患による障害。早期から良い支援を受けることで本人の不安が和らぎ、社会適応が良くなるケースは多くあります。また、同じ診断名であっても、子どもへの対応は一人ひとり異なります。多くは3歳以前に発症し、1歳半までに診断可能です。女児よりも男児が多く、およそ3対1です。
ASDには、「知的障がいのあるASD」と「知的障がいのないASD」があります。
ASDは、2つの軸に分けて理解すると分かりやすいです。1つ目の軸はASDの程度、もう1つの軸は知的障がいの程度です。(下表参照)
①:ASDがどちらかというと重く、知的障がいがある
②:ASDがどちらかというと軽く、知的障がいがある
③:ASDがどちらかというと重く、知的障がいはない
④:ASDがどちらかというと軽く、知的障がいはない
実際には、このようにはっきり分かれるわけではなく、それぞれの区切りのまん中あたりに属すると思われる子どもは大勢います。健常な子どもから重度の自閉症がある子どもまでのあいだには、はっきりした境界はなく、境界線は連続体であるため、自閉スペクトラム症(ASD)あるいは自閉症連続体と表現することがあります。
※障害児保育ワークブック(萌文書林)参照
【ASDの特性】
・ASDの特性として「1.抽象的な物事の理解が難しい」「2.興味とこだわり(想像性)」「3.感覚過敏・鈍麻」の3つの特性に分け、それぞれの項目ごとに年齢別で特性を記載しました。
1.抽象的な物事の理解が難しい
・自らかかわりを持つことが少なく、かかわりを持っても一方的であり、感情を共有する、会話を交わす等の相互性に欠ける。人とかかわるために視線や表情、身振り、声の抑揚等の非言語的表現を効果的に使えない。友だちと一緒に遊ぶ、ごっこ遊びのような想像性のある活動は苦手。相手の反応を予測してやりとりを続けることも難しい。
○人とのかかわり・社会性
【1歳児】
話しかけても視線が合わない
名前を呼んでも反応しない(振り向く、立ち止まるなど)
園の中でも不安で保育者から離れられない
あやしても顔を見たり笑ったりしない、表情の動きが少ない
人見知りをしない
イナイイナイバーをしても喜んだり笑ったりしない
抱こうとしても抱かれる姿勢をとらない
見せたいものを持ってくることがない
指さしで興味のあるものを伝えない
悲しくても慰めを求めない
一人になっても泣かない
【2歳児】
ごっこあそびをしない
保育者の表情に反応しない
話しかけても視線が合わない
名前を呼んでも反応しない(振り向く、立ち止まるなど)
見せたいものを持ってくることがない
指さしで興味のあるものを伝えない
【3~5歳児】
集団の中でもいつも一人で遊んでいる
トイレトレーニングに非常に苦労する
決まった遊びだけを繰り返す
ものの貸し借りができない。「貸して」「どうぞ」ができない
友達と追いかけっこをしたりしない(一緒に遊ばない)
バイバイなどをしてもまねしない(手のひらが逆のバイバイだったりする)
ほかの人のまねをすることが少ない
人に近づきすぎるなど相手との適切な距離をとれない
表情が乏しく、相手の表情を読み取ることも苦手
友だちと一緒にごっこ遊びをしない、ごっこ遊びの役になれない
他人との感情の交流がない
○言葉・コミュニケーション能力
【1歳児】
言葉が遅いと思う(ワンワン、ママなど意味のある単語が少ししか出ていない)
保育者が「ほら見てごらん」と指さししても、その方向を見ない
やってほしいことを、大人の目を見ないで手を押しつけて させようとする(クレーン現象で要求する)
気づいたことを保育者に知らせる時、ほしいものがあった時に顔を見たり指さししたりしない
【2歳児】
1. 2歳過ぎても言葉が出ない
オウム返しの応答が目立つ
【3~5歳児】
言葉が遅いと思う(「パパ、オウチ、カエッタ」などの簡単な文が言えない)
オウム返し、ひとり言、意味がわからない言葉が多い
「ですます調」の丁寧語や文章体で話したり、「ちなみに」「ところで」などといった大人びた口調で話す
言葉は話せるが会話が続けられない、相手の質問に答えず自分の興味を一方的に話してしまう
言葉が増えず、会話が成立しにくい
表情や身振りや声のトーンなど非言語的コミュニケーションを読み取ることが苦手
「ちょっと」「きちんと」「早く」「もうすぐ」などあいまいな言葉が通じにくい
○考える力(認知)
【1歳児~2歳児】
「ちょうだい」と言っても手にもっているものをくれない
「○○をもってきて」などの簡単な指示がわからない
自分の名前を呼ばれても返事をしない
絵本を見て知っているものを聞いても指さししたりしない
【3歳児~5歳児】
「どっちが大きい?」と聞かれてもわからない
「お名前は?」「いくつ?」などのかんたんな質問に答えられない
赤・青などの色の名前が正しく言えない
よく遊ぶ友達の名前が言えない
他人のものと自分のものの区別がつかない
2.興味とこだわり(想像性)
・全身を揺らす、手や指先を奇妙に動かす等の反復運動、頭をたたく、手を噛む、飛び跳ねる等の自己刺激行動・自傷行為を繰り返したりする。成長するにつれて、回数や時間、強さが増し、生活に支障をきたすこともある。(例:目の前でひもをくるくるひねる、おもちゃの一部だけをぐるぐる回す等)。
○興味とこだわり
【1歳児】
興味をもつものが限られている(回るもの、光るもの水など)
全身や身体の一部を、同じパターンで動かし続けることがある
頭を壁に打ちつける、手を咬むなど自分が傷つくことをする
【2歳児】
興味をもつものが限られている(回るもの、光るもの水など)
物を横目で見たり、極度に目を近づけて見たりする
玩具や瓶などを並べる遊びに没頭する
全身や身体の一部を、同じパターンで動かし続けることがある
【3歳児~5歳児】
自分なりの手順やこだわりがある(いつも同じように並べる)
手をひらひらさせる、くるくる回るなどの気になる行動がある
おもちゃで目的に合った遊び方をしない(なめたり、投げたり、関心を示さなかったりする)
自分の体をたたいたり、頭をぶつけるなどの自傷行為がある
興味や関心にかたよりがある
普段通りの状況や手順が変わると混乱する
マークや記号、数字、回転する物など、特定の物に強い興味をもつ
○想像性
【2歳児】
普段通りの状況や手順が変わると混乱する
【3歳児~5歳児】
新しい環境に慣れるのにとても時間がかかる(不安を示す、泣く)
誰かが泣いても心配そうに見たりしない
活動の切り替えが苦手
3.感覚過敏・鈍麻
・予測できない物音や特定の音を極度に嫌がったり、光の変化や回転する物に強く引きつけられたりする。肌に触れる物、食べるものに過剰に反応し、頑固に拒否したりする。匂いの記憶が鮮明で、物や人の匂いをかぐことに夢中になったりする。
周りにとって何でもない感覚刺激に、苛立ちや不安を感じて、耳をふさいで閉じこもったり、その場から逃げだしたりします。その一方で、無関心で、全く感じていないかのように振る舞うこともある。感覚刺激への異常の程度が、自閉症児が情緒的安定を保って生活することに大きく影響する。
【1歳児】
音や光、においに過敏に反応する
抱っこをいやがる(動く、そっくり返るなど抱きづらい)
なかなか寝なかったり、すぐ目をさます。睡眠の前後にひどくぐずる
偏食が激しく、食べ物のレパートリーが極端に狭い
痛みや熱さなどに鈍感であったり、敏感である
頭を壁に打ちつける、手を咬むなど自分が傷つくことをする
わけもなく突然笑い出したり、泣き叫んだりすることがある
【2歳児】
身体に触れられることを嫌がる
偏食が激しく、食べ物のレパートリーが極端に狭い
音や光、においに過敏に反応する(耳をふさぐ、目を細めるなどをする)
痛みや熱さなどに鈍感であったり、敏感である
頭を壁に打ちつける、手を咬むなど自分が傷つくことをする
【3歳児~5歳児】
つま先立ちで歩く
音や光、においに過敏に反応する(耳をふさぐ、目を細めるなどをする)
ざわざわした騒音が苦手
靴下をいやがりはきたがらない
温度や痛みに鈍感、または過敏
身体に触れられることを嫌がる
偏食が激しく、食べ物のレパートリーが極端に狭い
動きが激しく、高いところにも平気で登ってしまう
わけもなく笑ったり、興奮しすぎることがある