気になる子シリーズ (自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害) 診断基準等③

診断的特徴
 自閉スペクトラム症の基本特徴は、持続する相互的なコミュニケーションや対人的相互反応の障害(基準A),および限局された反復的な行動、興味、または活動の様式である(基準B).これらの症状は幼児期早期から認められ、日々の活動を制限するか障害する(基準CとD).機能的な障害が明らかとなる時期は、その人の特性や環境によって異なるだろう.
主要な診断的特徴は発達期の間に明らかとなるが、治療的介入、代償、および現在受けている支援によって、少なくともいくつかの状況ではその困難が隠されているかもしれない.障害の徴候もまた、自閉症状の重症度、発達段階、暦年齢によって大きく変化するので、それゆえに、スペクトラムという単語で表現される.自閉スペクトラム症は、以前には早期幼児自閉症、小児自閉症、カナー型自閉症、高機能自閉症、非定型自閉症、特定不能の広汎性発達障害、小児期崩壊性障害、およびアスペルガー障害と呼ばれていた障害を包括している。
 基準Aに規定されているコミュニケーションと対人的相互反応の障害は、広範で持続的なものである.臨床家の観察、養育者による病歴、および可能であれば自己評価などのような多角的な情報源に基づいたものであれば、診断は最も妥当性、信頼性があるものとなる.社会的コミュニケーションにおける言語的および非言語的な欠陥は、その人の年齢、知的水準、および言語能力のみならず、治療歴や現在受けている支援などの要因にも応じてさまざまな現れ方をする.完全に会話が欠如しているものから、言葉の遅れ、会話の理解が乏しい、反響言語、または格式張った過度に字義どおりの言語などまで、多くのものに言語の欠陥が認められる.形式言語機能(例:語彙力,文法)が損なわれていない場合でも、自閉スペクトラム症では相互的な社会的コミュニケーションに対する言語の使用は障害されている。
 対人的-情動的相互関係(すなわち、他所とのかかわり、考えや感情を共有する能力)の欠陥はこの障害をもつ年少の子どもで明確に認められ、対人的相互反応の模倣はわずか、または欠如し、情動の共有も欠如しており、他者の行動を開始することも少ないか、または欠如している.何か言語が存在するとき、それはしばしば一方的で、対人的相互性を欠き、意見を言う、感情を共有する、会話をかわすなどというよりはむしろ、要求する、分類することに用いられる。知的能力障害群や言葉の遅れのない成人では、対人的-情動的相互関係の欠陥が複雑な社会的手がかり(例:会話にいつどうやって参加するか、何を言ってはいけないか)を処理したり反応したりすることの困難さにおいて最も明確になるかもしれない.いくつかの社会的任務に対して代償的なやり方を獲得した成人でも、新しいまたは支障の得られない状況では苦労し、大多数の人達が直感的に理解する対人的な事柄を意識して想像しようと努力し不安に苦しんでいる.
 対人的相互反応に用いられる非言語的コミュニケーション行動の欠陥は、視線を合わせること(文化的発達基準と比較して)、身振り、顔の表情、身体の向き、または会話の抑揚などの欠如、減少あるいは特殊な使用によって明らかとなる.自閉スペクトラム症の早期の特徴は、他者と関心を共有するために対象を指さしたり、見せたり、持ってきたりすることの欠如、あるいは他者の指さしや注視の先を追うことの欠陥などで示される共同注意の障害である.患児は、機能的な身振りを少し習得する場合があるが、レパートリーは他者と比べて少なく、コミュニケーションの中で自発的に身振りで表現することが多い.流暢に話せる成人の中では、会話に伴う非言語的コミュニケーションを会話と協調させることの困難さがあり、奇妙な、無表情、または大げさな身体言語であるという印象を与えることがある.その障害は個人的な状況下では比較的目立たないかもしれない(例:会話時に視線を合わせる比較的良好な人もいる)が、社会的コミュニケーションにおいては、視線、身振り、身体の方向、韻律、および顔の表情を統合することの乏しさが目立つかもしれない.
 人間関係を発達させ、維持し、理解することの欠陥は、年齢、性別、および文化的な基準に照らし合わせて判定されるべきである.社会的関心の欠如、減少、または非定型性があって、それは他者への拒絶、消極性、または攻撃的または破壊的に見える不適切な働きかけとして現れる.これらの困難は、友達と一緒に遊ぶことや想像性(例:年齢相応の自由に変化するごっこ遊び)の欠如がよくみられ、やがて非常に固定化されたルールで遊ぶことに固執する幼児で特に顕著である.年齢を重ねると、ある状況においては適切であるが別の状況では適切でない行動(例:就職面接でのくだけすぎた行動),あるいはコミュニケーションに用いられることのある言語の子となった使い方(例:皮肉やお世辞)を理解することに苦労することがある.単独行動や、極端に年下または年長者との付き合いを好むように見えるかもしれない.しばしば、友情関係には何を伴うかということに対する明確な、あるいは現実的な見解をもつことなしに、友情関係を成立させようとする欲求がある(例:一方的な友情関係、または共有された特殊な関心だけに基づいた友情関係)、同胞、同僚、および養育者との関係を考慮することも重要である(相互性の観点から)。
 自閉スペクトラム症は、行動、興味、または活動の限定された反復的な様式(基準Bに明記されているように)でも特徴づけられ、年齢や能力、治療的介入、および現在の支援によって徴候の出現に幅がある。常同的あるいは反復的な行動には、単純な常同運動(例:手を叩く、指を弾く)、反復的な物の使用(例:貨幣を回す、おもちゃを一列に並べる)、および反復発語(例:反響言語、耳にした単語の遅延したまたは即座のオウム返し;自分のことを言うとき「あなた」という単語を使用;単語、文章、または韻律様式の常同的使用)などがある。習慣への頑ななこだわりや行動の限定された様式は、変化への抵抗(例:好きな食物の包装にほんの小さな変化があることに対する苦痛、規則遵守に対する個室、思考の柔軟性のなさ)、あるいは言語的または非言語的行動の儀式的様式(例:質問を繰り返す、同じ場所を周り続ける)として現れることがある。自閉スペクトラム症の極度に限定された固執した関心は、その強度または焦点において異常なものとなる傾向にある(例:鍋に強くひき付けられる幼児、掃除機に夢中な子ども、何時間もかけて時刻表を書き出す成人)。強い興味や習慣の中には、特定の音や触感への過度な反応、過度に物の臭いを嗅いだり触ったりすること、光または回転する物への強い興味、そして時には痛み、熱さ、または冷たさへの明らかな無関心などを通して明らかになるような、感覚入力に対する明らかな過敏さまたは鈍感さと関連しているものもある。味、臭い、触感、あるいは食物の見た目に対する極端な反応またはそれらに関する儀式、行き過ぎた食事制限などはよくみられることであり、自閉スペクトラム症を表す特徴であるかもしれない。
 知能の障害または言語の障害を伴わない自閉スペクトラム症の成人の多くは、公共の場で反復的な行動を押さえることを習得する。特有な関心は喜びや動機づけの源となり、その後の人生で教育や雇用へ通じる道となるかもしれない。行動、興味、または活動の限定された反復的な様式が現時点では症状を認めなくなっていても、小児期または過去のある時期において明らかに存在していた場合、診断基準を満たすことがある。
 基準Dでは、その特徴が社会的、職業的、または現在の他の重要な領域における機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしていなければならないことを求めている。基準Eでは、社会的コミュニケーションの欠陥があって、時には知的能力障害(知的発達症)を伴うものかもしれないが、その人の発達水準に一致しておらず、その障害が発達水準に基づいて予想される困難さを上回ったものであると明記されている。
 養育者への問診質問紙、および臨床家の観察を含む優れた心理測定的特性をもつ標準化された行動学的診断ツールが利用可能であり、それにより縦断的かつ臨床家間での診断の信頼性を向上させることが可能となる。

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル参照