気になる子シリーズ (注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害)診断基準等④

症状の発展と経過
 多くの親は幼児期早期に初めて過度の運動活動性を観察するが、症状を4歳以前の非常に多様な正常範囲の行動から区別することは困難である。ほとんどの場合、注意欠如・多動症は小学校年齢で同定され、不注意がより顕著で障害をきたすものとなる。この障害は青年期早期を通して比較的安定しているが、反社会的行動へと発展し増悪経過をたどる人もいる。注意欠如・多動症をもつ人のほとんどは、青年期および成人期には運動性多動の症状は明らかでなくなるが、落ち着きのなさ、不注意、計画性のなさ、衝動性に伴う困難は持続する。注意欠如・多動症をもつ子ども達のかなりの割合は成人期にも多少の障害を残存する。
 就学前の主な兆候は多動である。不注意は小学校で明らかとなる。青年期では、多動の徴候(例:走ったり高い所へ登ったり)はあまりみられず、そわそわする感じまたはいっとしていられない、落ち着かない、または我慢できないことに限定されるかもしれない。成人期には多動性が軽減した場合でも、不注意や落ち着きのなさと同時に、衝動性が問題として残存することがある。

危険要因と予後要因
 気質要因:注意欠如・多動症は行動抑制の低下、制御の努力や束縛、負の衝動性および/または高い新奇探索性に関連している。これらの特性は子ども達にとって注意欠如・多動症の素因となりうるが、この疾患に特異的ではない。
 環境要因:極低出生体重(1,500g未満)では注意欠如・多動症の危険性が2~3倍となるが、低出生体重児の大多数は注意欠如・多動症を発症しない。注意欠如・多動症は妊娠中の喫煙と関連している、この関連の一部は一般的な遺伝的危険性を反映したものである。少数の症例では、食事面への反応に関連している場合がある。児童虐待、ネグレクト、複数の里親による養育、神経毒(例:鉛)への曝露、感染症(例:脳炎)、または子宮内アルコール曝露の既往に関連しているかもしれない。環境毒物への曝露はその後の注意欠如・多動症発症と関連するとされているが、これらの関連が因果関係をもつかどうかは不明である。

 遺伝的要因と生物学的要因:注意欠如・多動症は注意欠如・多動症をもつ人の生物学的第一親族に多い。注意欠如・多動症の遺伝率はかなり高い。いくつかの特定の遺伝子が注意欠如・多動症と関連しているとされ、一方、それらのいずれも原因因子として必要でも十分でもない。視覚および聴覚障害、代謝異常、睡眠障害、栄養失調、およびてんかんが、注意欠如・多動症症状に影響する可能性があるものとして考慮されるべきである。
 注意欠如・多動症は特定の身体的特徴をと関連しないが、小奇形(例:両眼隔離、高口蓋、耳介低位)の発生率は比較的高いかもしれない。わずかな運動発達の遅れや他の神経学的微細徴候が生じるかもしれない〔併存する顕著な不器用および運動発達の遅れ(例:発達性協調運動症)は別にコードしておく必要があることに注意〕。
 
 経過の修飾要因:小児期早期の家族の相互作用の様式が注意欠如・多動症を引き起こすことはほとんどないが、その経過に影響を与えるか、または素行問題を二次的に発生することに影響するかもしれない。

性別に関連する診断的事項
 一般人口において注意欠如・多動症は女性より男性に多く、小児期で2:1、成人期で1.6:1である。女性は男性よりも、主に不注意の特徴を示す傾向がある。

DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル参照